自然利子率(Rスター)の概要
自然利子率(Rスター)は、経済や物価に対して緩和的でも引き締め的でもない利子率の水準です。自然利子率は最適な資産配分が実現する金利水準とされていますので、中央銀行は自然利子率に一致するよう実質金利を誘導すればいいという考えを持っています。自然利子率は、中長期的に潜在成長率と類似するとされており、中央銀行にとっては金融政策スタンスを緩和的か、あるいは引き締め的かを判断するベンチマークの一つとなっています。
当ページでは、自然利子率と実質FF金利との比較チャートや実質中立金利も掲載しています。
- 当ページは、米国(アメリカ)の自然利子率(Rスター)の解説と推移(チャートと時系列)を掲載したページです。
- 各指数・指標の解説
「自然利子率とは」 - Source:Federal Reserve Bank of New York
- 単位:%
- 速報値を掲載し、改定値で修正があった場合は改定値を上書きして掲載しています。
- 当ページでは、市場で最も注目されるジョン・ウィリアムズ現ニューヨーク連銀総裁のLaubach-Williamsモデルの自然利子率を掲載しています(解説は以下)。
- Natural Rate of Interest(R star) historical data&chart
自然利子率とは?わかりやすく簡単に解説
自然利子率(読み方:しぜんりしりつ|英語:natural rate of interest)とは、1898年にスウェーデンの経済学者クヌート・ビクセル氏が考案した概念で、経済や物価に対して緩和的でも引き締め的でもない利子率(実質金利)の水準です。自然利子率は「Rスター(アールスター)」とも呼ばれています。
需給(需要と供給)が均衡し、完全雇用のもとでインフレもデフレも過度に起こさずに順調に経済が成長していく金利水準が「自然利子率」です。
「需給が均衡」とは、あらゆる価格が需給に合わせてすぐに調整されるということを意味しますが、現実の世界ではあらゆる価格が需給に合わせてすぐに調整されないので、あくまで仮想の世界を前提としたものです。その仮想の世界では需給が一致しているので、最適な資産配分が実現します。その最適な資産配分が実現する金利水準が自然利子率です。
利子率(金利)には「名目」と「実質」があります。このうち緩和的でも引き締め的でもない実質利子率(実質金利のこと。名目利子率(名目金利)から期待インフレ率を差し引いた利子率)が自然利子率です。インフレでもデフレでもない、貯蓄と投資が均衡する実質利子率(実質金利)のことを指します。一方、貯蓄と投資を均衡させる名目利子率(名目金利)、つまり名目ベースの利子率を「中立金利(ちゅうりつきんり)」といいます。
※ただし、需給が均衡し中立的な金利であることから、自然利子率のことを「中立金利」と言う場合もあります。
実質金利と期待インフレ率の解説ページはこちら
実質金利と期待インフレ率のわかりやすい解説と推移(チャートと時系列)は、以下のページで掲載しています。
自然利子率と金融緩和・金融引き締めの関係
自然利子率は中長期的には潜在成長率と類似するとされており、中央銀行にとって金融政策スタンスを金融緩和的か、あるいは金融引き締め的かを判断するベンチマークの一つとなっています。
米国の潜在成長率の推移はこちら
米国の潜在成長率の推移と解説は、以下のページで掲載しています。
自然利子率は、需給が均衡しインフレもデフレも過度に起こさずに順調に経済が成長していく金利水準で、最適な資産配分が実現する金利水準ですので、中央銀行は実際の実質金利が自然利子率に一致するよう実質金利を誘導すればいいということになります。
よって、中央銀行は金融政策で、実際の実質金利が自然利子率より高い場合は金融緩和を、実際の実質金利が自然利子率より低い場合は金融引き締めを行うことが望ましいと考えられています。
他方、中央銀行の金融政策スタンスを見る場合は、実際の実質金利が自然利子率より高ければ中央銀行の金融政策スタンスは金融引き締め的、実際の実質金利が自然利子率より低ければ中央銀行の金融政策スタンスは金融緩和的と判断できます。
長期金利と自然利子率の関係・計算式
長期金利の解説は、以下のページを参照してください。
米国10年国債利回りの推移はこちら
米国10年国債利回りの解説と推移(チャートと時系列)は、以下のページを参照してください。
長期金利の決定要素について
長期金利の決定要素は複雑ですが、一般的には「自然利子率・期待インフレ率・金融緩和度」が決定要素になるとされています。
計算式
計算式は以下のようになります。
※金融緩和度は、実質金利で測ることができます。
ただし、マーケットは先行きの予想で動きますので、自然利子率はどれぐらいか、期待インフレ率は今後上がるのか下がるのか、金融政策のスタンスは今後緩和的か引き締め的か、それらを予想して(織り込んで)長期金利は動きます。
自然利子率の推計
需要と供給は刻一刻と変化して直接観察できないため、自然利子率は様々な手法・モデルによって推計されています。推計手法についての確立したコンセンサスはなく、推計手法によってその結果はかなりの乖離があるため、特定の手法に基づいて推計された結果だけでその水準を測ることはできません。よって、各中央銀行はそれぞれ異なる推計結果を見て総合的に自然利子率を判断しています。
自然利子率の研究の大家「ジョン・ウィリアムズ氏」
自然利子率の研究の第一人者は、米国(アメリカ)のジョン・ウィリアムズ氏です。世界的に自然利子率の研究の大家として知られています。ウィリアムズ氏はスタンフォード大学の経済学の博士号を取得し、エコノミストとしてFRB(連邦準備制度理事会)で経験を積んだ後、当時サンフランシスコ連銀総裁であったジャネット・イエレン氏のもとで活躍しました。その後、イエレン氏がFRB副議長に転じたことを受け、2011年サンフランシスコ連銀総裁に就任、2018年には米国の金融政策の実務を取り仕切るニューヨーク連銀の総裁に就任しました。ウィリアムズ氏の自然利子率の研究は米国の金融政策に影響を与え、イエレンFRB議長(当時)は「この研究がFRBの知的基盤確立に役立った」と評価しました。
Laubach-Williamsモデル(当ページの自然利子率について)
そんなウィリアムズ氏は定期的に自然利子率を推計・公表しており(Laubach-Williamsモデル)、リーマンショック以降、世界的に注目を集めました。自然利子率は様々な手法によって推計されていますが、このLaubach-Williamsモデルの自然利子率の推計値が市場で最も注目されています。当ページではその推移を掲載しています。Laubach-Williamsモデルとは、フィリップス曲線を含めた状態空間モデル(カルマン・フィルター)を用いて自然利子率、潜在成長力、潜在成長率を同時推計する方法です。
ただし、注意しておきたいのは、自然利子率は過去に遡って大幅に修正されやすい点です。過去に遡って0.5-1.0%程度の修正は当たり前のようにありますし、公表とともにこれまでの推移の景色がガラッと変わることも十分ありますので、かなり幅をもって見る必要があります。また、自然利子率はモデルによっても値がかなり異なるため、大まかに見る必要があります。
新型コロナのパンデミックによる定期更新停止と再開時の変更点
ウィリアムズ氏のLaubach-Williamsモデルの自然利子率は、COVID19パンデミックに関連するGDPの変動性の高まりによって推計値の定期的な更新が2020年2Qから停止されていましたが、2023年5月に定期更新が再開されました。
再開に伴い、自然利子率の算出について2つの修正点があります。以下にNY連銀公表の2つの修正点を記載します(和訳)。
パンデミックによって引き起こされた元のモデルの仮定の2つの違反に対処するために、モデルの推定に 2つの修正を加えました。これについては「 Measuring the Natural Rate of Interest After COVID-19 」に詳しく説明されてます。
まず、経済の潜在力を直接低下させるパンデミックの影響に関連した追加の持続的な供給ショックを織り込みました。私たちは経済ごとのオックスフォード 新型コロナウイルス感染症政府対応厳格度指数を使用してこのショックを測定します。この指数は政府の封じ込めおよび閉鎖政策の措置を集計したものです。この指数はもう作成されていないため、いずれの場合も2023-202年にかけてゼロまで滑らかに減少すると仮定します。
2番目に、モデルの推定で外れ値を考慮する統計手順を使用します。具体的には2020年の第2四半期から2022年の第4四半期まで経済を襲うショックの分散の時間変化プロセスを推定します。この手順では、非常に大きな外れ値がある期間の重みが低くなります。外れ値が2020年に特に大きく、2021年と 2022年の異常値の推定規模は比較的控えめです。2023年以降、ショックの分布はパンデミックの影響を受けなくなると想定されます。
修正されたモデルを推定すると、3つの重要な発見が明らかになりました。まず、修正された推定手順により、パンデミック前の期間の元のモデルの結果と全体的に非常によく似た結果が得られます。第二に、r-starの現在の推定値はパンデミック直前の推定値と類似しています。第三に2022年末の自然生産レベルの推定値は、パンデミック前の予測よりもはるかに低いです。推定値は2019年までは非常に似ており、終了時点では2つの推定値は互いに非常に近くなっています。
自然利子率の公表日(発表日)
米国(アメリカ)の自然利子率の公表日(発表日)は四半期毎です。
2024年の予定公表日(発表日)は以下。
- 2024年2月29日
- 2024年5月31日
- 2024年8月30日
- 2024年11月28日
金融緩和と金融引き締めの強さ(金融緩和度と金融引き締め度)の推移はこちら
自然利子率と実質FF金利の差で算出される金融緩和と金融引き締めの強さ(金融緩和度と金融引き締め度)の推移と解説は、以下のページで掲載しています。
チャート(自然利子率)
米国の自然利子率(Rスター)のチャート(Laubach-Williamsモデル)
- チャート画像クリックで拡大表示します。
- Chart [Natural Rate of Interest(R star)]
- チャートの灰色の期間が米国の景気後退期間です。景気後退期間の解説と推移は、以下のページを参照してください。
チャート(自然利子率と実質FF金利)
自然利子率と実質FF金利(PCEコアベース)のチャート
- PCEコアデフレーターから算出した実質FF金利です。
- ゼロ%ラインに黒色の点線を引いています。
- Chart [Natural Rate of Interest(R star),Real Federal Funds Rate-PCE Core]
- 実質FF金利の解説と推移は、以下のページで掲載しています。
自然利子率と実質FF金利(コアCPIベース)のチャート
- コアCPIから算出した実質FF金利です。
- Chart [Natural Rate of Interest(R star),Real Federal Funds Rate-US Core CPI]
チャート(実質中立金利)
実質中立金利のチャート
- Chart [Real Natural Rate of Interest(us)]
- 実質中立金利は、FRBが想定している自然利子率を意味します。その見方や解説は以下のページで掲載しています。
[速報] 自然利子率(Rスター)の時系列(historical data)
[最新データ] 自然利子率(Rスター)
[最新データ] 2024年8月30日公表分の 自然利子率(Rスター)の時系列データ | |
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日付 | 自然利子率(米国) |
[前回データ] 自然利子率(Rスター)
[前回] 2024年5月31日公表分の 自然利子率(Rスター)の時系列データ | |
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日付 | 自然利子率(米国) |